第3回: Sweet Amazer (3) 心痛の袋小路より


ミニアルバム"Sweet Amazer"、2曲目に入れたのは"Heartache Close"(ハートエイク・クロウス)。モータウン的リズムを強調した歌で、そういう意味では一曲目の"Sweet Amazer"とも通じますね。このタイトルは、80年代前半のイギリスでヒットしたメゾネッツというバンドの"Heartache Avenue"というヒット曲への感謝を込めた、ちょっとしたもじりなんです。1982〜84年頃でしょうか、自分が17、8の頃、当時イギリスではモータウン/ソウルのちょっとしたリヴァイバルブームが起きていて、今でもあの頃の音楽に憧れがありますし、絶えずインスピレーションをもらっているんですね。そのことを、まずは示しておきたかったんです。


ただ、タイトルに込めた意味にはもう少し自分の日々感じることを込めてもいます。歌詞を御覧いただくとわかると思うのですが、いまの社会の有様をみつめて、考えないようにしたり、自分から騙されに行ったり、甘い見通しに逃げようとしたりする、そんな弱い自分自身を叱咤激励している、という感じでしょうか。


HEARTACHE CLOSE - THE PENELOPES
(T. Watanabe)




You've led yourself to Heartache Close
君は自分で自分をハートエイク・クロウス(心痛袋小路)に導いてしまったのさ
with a heart of stone
石の様に冷たい心で
with nothing to do
することも何もないまま
I know where the story goes
その話が何処へ行くのかはわかってるよ
Do you still believe in what no one can prove?
いまだに君は 誰も証明出来ないことを信じてるんだね

I've seen you turned down
君が拒絶されてるのを見て来た
Well I know that is true
それが本当なのは僕は知ってるよ
Clouds move in inch by inch
雲が少しずつ近づいて来る
What will you do?
君ならどうするんだい?
You better notice there's more than we knew
私たちが知っていた以上のことがそこにはあるってこと 知っといた方がいいよ
It's a cover not a book
それはカヴァーであって本ではないんだから
untrue
真実ではないんだよ


Living on a time bomb yeah
時限爆弾の上で暮らしてるんだよ
They say there's no danger till found all's too late
すべて手遅れになるまで 危険はないと彼らは言うけれど
Living on a time bomb yeah
時限爆弾の上に住んでるんだよ
They say there's no danger till we go to our fate
我々の命運が尽きるまで 危険はないと彼らは言うけれど


I've seen you tramped down
君が踏みつけられるのを見て来たよ
Well I know that is true
それが本当なのは僕は知ってるよ
Papers won't winkle the truth out of nukes
新聞は原発から真実をあくまで引っぱり出そうとはしない
You better notice there's more than we knew
私たちが知っていた以上のことがそこにはあるということ 知っておいた方がいいよ
It's a cover not a book
それはカヴァーであって本ではないんだから
untrue
真実ではないのさ


You better notice
気づかないといけないよ
what is missing
何が消えているかを


Open up your eyes again
もう一度目をしかと開いて
Have a close look at what they're doing
彼らがやっていることをしっかり見よう
Let us prick each and every bubble
あらゆる偽りを暴いていこう
otherwise oh otherwise...
さもないと、さもないと・・・



今世の中を見て、正直明るい話題を見つけるのは難しいですよね。ご存知の通り、福島第一原発の事故は、いまだ今後の収拾の見込みすら見えない危険な綱渡りが続いてます。どれだけの方々が故郷を失っているか、どれだけの現場の方々が危険な被ばくをし続けながら作業をされているか、考えるだけでも本当につらいです。食品の汚染、それに汚染水の問題も大変なことになっていますし、それに、来月から始まるという4号機プールからの凄まじい数の使用済み核燃料の取り出し作業はもう、背筋が凍るような恐怖です。何より、地球上にある、処分出来ない膨大な放射性廃棄物のことを考えただけで、我々人類は何ということをしてしまったんだ、自分は子どものころから色んなところ(音楽や映画、本や絵画や時には漫画、アニメなど)であれだけ「核」の恐ろしさを感じたり知って来たつもりだったのに、何と無知で愚かで無神経だったのか・・・そう思わずにはいられないのです。本当に未来の世代に申し訳が立たない。


しかしそんなときに、いまこの国の政権や官僚がやろうとしているあらゆる強行 - 都合の悪い情報は隠し、こんな地震多発国で原発再稼働をいまだ目論み、海外での新たな原発建設の契約を取り付け(しかも処分が事実上不可能な核廃棄物を我が国が引き取るという条件で! )、憲法を解釈改憲してでもアメリカの戦争へ追随し、そして99%の国民からは一円でも巻き上げ弱らせ、監視して知る権利は奪い、縛り上げる・・・これらの、戦前戦中回帰の軍国主義的な恐怖政治の推進と新自由主義的な格差社会の固定化としか思えないような動きは、今後もし放射能汚染で、健康被害が増え、さらには日本の人口が減り、そしてその原因を国民ならびに世界から追及され非難された場合に備えて、そのことを見越して打った先手で、国家権力の中枢を握る彼らにとっての「国力」が低下することへの恐怖から出た盲動、要は権力という怪物がその生命維持のために却って死の崖に向かって暴走しているようにしか見えないのですが、いかがでしょうか。市民の権利をさらに充実させて民主主義国としてのイメージアップを図る(そのことによって国民に夢と希望を与える)のならまだしも、人類の歴史に逆行するような流れを突き進んでいるなんて、どう見ても全く異常で危険に思えるのですよ。私たちの生存も脅かしかねないという。


そんな現状があるのに、音楽を含めた表現/創作の世界に携わったり、あるいはそれらを愛しているはずの方々はどうなってるのでしょうか? それぞれの方にそれぞれの事情があるとは思うので、断言するつもりはありませんが、どうも見ていて、権力の側に立った(同化した)、あるいは過度に冷笑的な、言うなれば悪い意味で子どもっぽいニヒリズム的視点が目立つのが気になるのです。つまりは、おかしなことをしている強い側に言う勇気がないから、弱い側をいじめるという行動パターンでしょうか。自民党も良いことをしたと抗弁したり、露悪趣味的に、懸命に声を上げる市民の動きを茶化したり・・・そこまで行かなくても、まるで何も起こってないかのように、過度に黙して何も語らなかったり、あるいは声を上げる人たちに対して迷惑そうな、あるいは侮蔑的な視線を投げつけたり - まるで嫌いなピーマンだけ丁寧に選り分けて外す偏食児童さながらに - ・・・特にこの2年あまり、そんな行動が目立つことが本当に気になります。それらは健全な保守性でも、ましてクールな姿勢でも表現/創作行為への愛情でも何でもなく、結局は破壊に手を貸す結果にしかならないのではないでしょうか。今となっては、人間の人間たる前提的な営為である「創作」活動に敬意を持っているはずの人たちの多くが、こんなにもいとも簡単にマスメディアやネットに煽られて、ニヒリスティックな即席国家趣味(国家主義の「主義」ですらない)的「破壊」の空気に翻弄されてしまっているように見えることにがっかりしているというのが、いまの偽らざる気持ちです。


もちろん、声を上げたくても上げられない方達もおられると思いますし、何も語らないのだとしても、それにはさまざまな理由があるでしょうから、上に書いた様な向きは一部であるか、あるいは私の思い込みであると思いたいのですが。でも、自分は騙されてないと断言できる人がどれくらいいるでしょうか。私だって正直自信がない。それに、そうなりそうな部分 - ニヒリズムに流されてしまいそうな部分はもちろん私のなかにも常にあるんです。実際そっちの方がその場はラクですしね。


だけれども、だけれどもですよ、もしそうやって騙されたまま、その場その場の空気を読んで、ラクな方に逃げてるのだとしたら - 今起こってることに関して言えば、本当に手遅れになるんじゃないでしょうか。もし心配で不安ならば、そして、事情があって、声を上げる人たちに連帯できないのであれば、せめて邪魔する結果になるような行為はやめて、最低でも自分の無知や弱さと向き合い、どうやって、自分とその周りを少しはマシな方向に持って行くか。場合によってはそんな弱い自分と戦わないといけないと思うんですよね。エエカッコシイでもなんでもなく、ひとりひとりが小さな勇気を振り絞って、権力/権威が流す嘘の情報、「破壊」の空気に騙されないように、常に勉強し、常に警戒すること。すぐに騙される、すぐに付和雷同し弱いものいじめに走る弱く卑怯な自分と戦うこと、自分のなかの幼稚なニヒリズムと戦うこと。その試練のなかで何より忘れては行けないのは個としての人間の良心、人情、愛情、人道・・・といった言葉で括れる姿勢。生きている限り、社会に参加しているのであり、社会に参加しているということには本来、そういう要素が含まれていると思うのですが。


この歌では、そんな、いつも流され、勇気を失い、騙されそうな自分自身に問いかけています。お前はまた騙されるのかと。そうしないと結局は、自分の大切な世界が、生活が、平和な前提がいずれ潰されてしまうぞ、と。せめてそこからでも始めるべきだと思いませんか??


・・・とまぁ、昭和40年男が、往時のスタイルカウンシルに負けないぐらいKeep On Burningしてみましたが(笑)


音楽的には上に書いたことに加えてやっぱりキンクス、フー、それに最近、XTCの"Fly On the Wall"(1982年の5thアルバム"English Settlement"に収録)からもらったインスピレーションもかなりあるなぁと自分で気づきました。特に、権力側からの視点を描いた"Fly On the Wall"は、今世界を騒がせている盗聴、も思い起こすような、凄くタイムリーな国民総管理国家的な内容を、あいまいなムードで、ユーモラスに比喩的に伝えて来るのが、とても興味深いと思いますね。



Sweet Amazer/THE PENELOPES

1. Sweet Amazer
2.Heartache Close
3.Cloudcastle
4.Larkspur
5.And She Does (Does Me Good)
6.The Disappointed
7.埴生の宿 (Home Sweet Home)


The Penelopes - Sweet Amazer: http://youtu.be/U95qboJv_gk youtubeさんから
iTunes - http://bit.ly/ZP1DkF
Amazon mp3 - http://amzn.to/11th9kx
mora - http://bit.ly/Zs4EY8
レコチョク- http://bit.ly/15Ix7dS

イギリスのインディー音楽サイトNEWUSB.CO.UK - The Penelopesの新作"Sweet Amazer"の楽曲が聴けます。ぜひチェックしてみて下さい。
http://bit.ly/15ax09L





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